今まで生きてきて、最も怖かった話
小さい頃、今で言うモーニングショーのような番組で、
実際、見た話である。
それは津市の中河原海岸で昭和30年に起きた
36人もの水死者を出した事件である。
その後何回か同じ場所で水難事件が起きたそうだ。
その何回目かの事件のニュースを見たものと思う。
三重県にある中学の例年行われた夏の水練
の授業で、事件は起きた。
遭難者43名は泳げない組で岸から約10メートル
のところでジャブジャブやっていたところ、突然高波が
襲いかかり、遭難した。うち7名は救出された。
生存者の女生徒によると防空頭巾にもんぺ姿の
たくさんの女の人が足をひっぱりに来たという。
ここまではうっすらと覚えている。
実際、事故10年前の1945年7月28日には米軍の空襲があり、
250人以上の被害者のうち、火葬しきれない遺体をこの海岸に
埋めたそうだ。
<生存者の手記>
一緒に泳いでいた同級生が、「見て!」と、
しがみついてきたので、2、30メートル沖を見ると、
泳いでいた同級生が、つぎつぎと波間に姿を
消していった。
そこで、A子さんは水面をひたひたと、黒いかたまりが、
こちらに向かって泳いでくるのを見た。
それは何十人もの女の姿で、水を吸い込んだ
防空頭巾をかぶり、もんぺをはいていた。
逃げようとするA子さんの足をつかんだ力はものすごく、
水中に引きこまれていった。
薄れゆく意識の中でも足にまとわりついて離れない
防空頭巾をかぶった無表情な白い顔を、
はっきり見続けていた。
そして生存者のうち5人がこの異様な女性を
見たと言っている。
この海岸はいまだに遊泳禁止になっている。
この話をテレビで見て以来、盆には絶対に海水浴
には行かない。そして遊泳禁止の海には近づかない。
というのは、子供の頃、盆に泳ぐと、
霊が足を引っ張りに来るとよく聞かされて
いたからだ。
大明宣徳の銘が有る、文殊菩薩倚像
